~赤磐ぐんぐんだよりは、

松田以外のスタッフが毎月交代で「育てる会会報」掲載用に書いています~



赤磐ぐんぐんだより 20235月末号

 

 

赤磐ぐんぐんの窓から見える山々にも新緑が目立ち、吹き抜ける風も心地よい季節となりました。

4月当初は、新しい場所・新しいメンバー・新しい先生といった環境の変化にちょっぴり緊張気味だったお子さんたちの表情も和らぎ、笑い声や笑顔が増えてきました。

 

私自身も、4月から人事異動により2年ぶりの赤磐ぐんぐんでの勤務となり、約2か月が経ちました。
少しずつ赤磐ぐんぐんの療育やリズムに慣れてきたかなといったところです。

 

4月からの約1か月間、様々な研修の一環として、直接支援ではなく、客観的に様々な場面を見学させて頂きました。

スタッフとご家族が勉強場面の振り返りをしている場面・本人への関わり方を相談されてご家族と一緒に本人にとって有効な手立てを考える場面・ご家族が療育時間中に松田先生の保護者座談会に参加されている場面といった、様々な場面を客観的に見せて頂きました。


赤磐ぐんぐんは「家族同室型」療育ですので、療育の様子を見ながらご家族からコメントをいただいたり、相談でお子さんの気持ちを想像したりご家族の考えを語ったりする場面もたくさんあります。


 

お話しておられる様子を見学させていただいていて驚くのは、
お子さんの良さや強みをたくさんご存知なこと
「本人が今これをしたのは、あれが見えたからだと思う」「前に経験したことをよく覚えているからだと思う」などお子さんの思考の流れや視線の動きを追っておられること
「〇〇なところは苦手だからこそ、△△するとうまくいきやすい」などの手立てや工夫や配慮を把握しておられること
そして
それらをご家族自身の言葉で、スタッフや他のご家族に説明できることです。


 

私自身はというと、
学級懇談会などでわが子のことを人に伝えようと思っても
その場で思いついたことを話すので、言葉が足りずに伝わりにくかったり
自分の主観だけで話すので、聞いている人がイメージしにくかったり…
話した後でちょっと反省…となることが多いです。


どうしてご家族がお子さんたちのことをこんなに分かりやすくお話できるのかなと考えてみると、
お子さんの行動をよく観察し
その行動に対して
「どうしてそうしたのか?」
「何を見ていたのか?」
「直前に何があったのか?」
「本人なりの思いとしては何が言いたかったのか?」など、
行動の背景を療育の中でスタッフと考え、
それに対して有効な関わりでどのようなものがあるかを一緒に検討し、実際にやってみる…という
試行錯誤を常にやっておられるからこそ、手応えと共に語ることができているのではないかと感じました。

そして
このような実践が積み重なっていくことで
今後お子さんが関わっていく中で
新しい環境や新しい人(たとえば就学や放課後等デイサービス・おじいちゃんおばあちゃん・近所の人など)にも説明していき、
理解者を広げていくことにも繋がっていけるんだろうと思います。
ご家族が自分の言葉で話すということはとても大切だなと感じました。

 

以前赤磐ぐんぐんで勤務していた時も、異動先の法人内の別の事業所でも、
ご家族がお子さんのことを説明してくださることは多くありました。
どの方も深い愛情とお子さんのためにと考えて色々行動される姿が素敵だなと思っていました。

先生と勉強の中でも、このような試行錯誤の様子はあり
お子さんが適切な行動ができていた時に
ご家族が後ろからそっと
「〇くん、今の良かったよ!上手!」とその場ですぐにフィードバックしておられる姿がありました。

そのお母さんに
「なぜその場ですぐに後ろから声をかけたんですか?」とお聞きすると
「時間が経ってから本人に『さっきの〇〇良かったよ!』と褒めても、本人はもう忘れてしまっているから、『何のこと?』となるんです。
だから、覚えているうちにすぐに褒めるようにしていて、そうすると、本人の何が良かったのか?なぜ褒められたのかが本人がピンときやすいと思うんです」と答えてくださいました。

今までお母さんとスタッフたちで確認してきた支援や関わりのコツが
その都度実際の場面で確認してこられ、実践されていることが伝わってきました。

また、それを続けておられ、その中でご家族が手応えを感じておられるからこそ、実践に繋がっているんだなと感じました。

 

もう一つの勉強の機会として、この研修期間中、ASDの支援について動画や勉強会などを通じて学ばせて頂く機会がありました。


その中で「なぜASDのお子さんにとって視覚的な情報提示が良いのか?」ということについて学びました。
先日の松田先生主催の療育スタッフ勉強会でも、
アメリカの動物学者のテンプル・グランディン(ASD当事者の方)の本
「自閉症の才能開発」という本からの引用として
『絵で考えるのが私のやり方である。
 言葉は私にとって第二言語のようなもので、
 私は話し言葉や文字を、音声つきのカラー映画に翻訳して、
 ビデオを見るように、その内容を頭の中で追っていく』というお話が紹介されました。
本

原著のタイトルは「Thinking in Pictures
まさに「絵で考える」なんですね。

「写真やイラスト・文字などの視覚的な情報は、自分のペースで情報処理できる」
「説明されているどの部分に注目すればよいかが書いて示されていると本人にピンときやすい」ということも教えていただきました。


また、動画の中では、ASDの成人期の方の日常の様子も紹介してあり、
その方の幼少期・学童期からの取り組みを経て、現在の様子についてみていく中で、視覚的な物を用いて自立して自信を持って毎日を過ごしておられること
「分かる」「できる」環境があるからこそ、
対人やりとりの力を培い、適切な学び・適切な経験を幼少期に多く積むことで、
学童期・成人期のコミュニケーションの基礎になるのだと実感しました。

そして
同時に人と一緒に〇〇したい・コミュニケーションを取りたいといった動機の部分につながるのだということも実感しました。

 


5
月になり、実際に自分も療育現場で支援を開始していく中で、
動画の内容と目の前のお子さんの姿と今までのその子の療育の記録を読み進めていくと、
「なぜこの個別支援計画が立ったのか」
「なぜこの子にこの視覚支援が必要になったのか」
「この取組みが園・家庭での対人やりとりの場面でこの子にとってどのようにつながり、どのような結果につながっていくのか」
などの理由や根拠が少しずつ見えてきたように思います。

自分の中で整理をしたり、考えを模索したり、他のスタッフの先生方に質問したりする中で、
お子さんたちが普段生活する家庭・園などでの具体的な日常場面を想定しながら取り組みを進めていることや
スモールステップで取り組み、一人一人のお子さんの“できた”という成功経験を大切に保護者の方と共に進めていっていることが伝わってきました。

 


研修期間にご家族やスタッフの先生方から学んだこと・動画で学んだ内容を生かし、
ご家族と一緒に目の前のお子さんの様子を確認しながら、
ASDの視点とお子さん一人一人の気持ちや考えを大切に
「こういう理由だったのかもしれませんね」
「この方法は本人にとって分かりやすいかもしれませんね」
「普段のこういう場面でも使っていけるかもしれませんね」という発見を、
理由も併せて整理しながらご家族やお子さん本人と共有していきたいと思います。

 

赤磐ぐんぐんでの時間がお子さん一人一人の成長とご家族にとっての
たくさんの喜びに繋がっていけたらと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

 

(赤磐ぐんぐん療育スタッフ:T