~赤磐ぐんぐんだよりは、
松田以外の療育スタッフが毎月交代で、「育てる会会報」掲載用に書いています~
赤磐ぐんぐんだより 2022年11月末号
日暮れが早くなり、夜明けは遅くなり、起きた時には部屋は寒い。
「あ~寒い…冬が近づいてきているんだなぁ」とのろのろ起き出す今日この頃。
あちこちに漂うクリスマスムードに背中を押してもらいながら、楽しく冬支度をしていきたいですね。
今月のテーマは、
「子どもの『興味関心』を使うのは大事!難しいけど、楽しい!」です。
赤磐ぐんぐんは「ASD(自閉スペクトラム症)」の診断が出ているお子さんが対象の事業所です。
DSM-5によると、ASDは
「社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害」
「限定された反復する様式の行動・興味・活動」などが
診断基準として挙げられるそうです。
例えば、ポケモンにとても強く興味を持っているASDのお子さんがいるとします。
まるでポケモン図鑑を丸暗記しているかのようなポケモンの知識があり
ポケモン映画のキャラクターや裏設定なども丁寧に解説することができ
ポケモンであれば、難しい折り紙をネットで折り方を見ながら、
角まできっちりぴっちり折りながら、失敗しても何度もチャレンジし続ける
集中力・向上心を持っています。
一方、園で「クリスマス」について、
先生の話を集中して聞き続けることが難しかったり、
折り紙でサンタクロースを作ると言われても、
手順書を示してもモデルを見せても隣で折って見せても、
なかなか取り組むことができにくかったりします。
「興味がないことはやらないなんて!
やる気がないからだ!
怠けている!
世の中そんなんじゃ渡っていけない!」なんて思われるかもしれませんが
まさに「限局された反復する様式の行動、興味、活動」が診断基準なんだから
むしろASDの人の脳からすると、当たり前だったりします。
興味があることならやれるんだから、興味が持てるもの持ってこい!てなもんです。
興味が持てるものを使って活かすことができれば、
たくさんのことを学んでいける力にもなっていくと思い、色々工夫しながら療育を行っています。
「本人の興味関心・好きなこと」を使って、
失敗した&うまくいったエピソードをいくつかご紹介します。
【ちょっと失敗エピソード】
「すみっコぐらし」が大好きなAちゃん。
持ち物や服装も すみっコぐらしが多いため、
「援助要請の練習にも すみっコぐらしを使えば、伝えたいという気持ちが強まるはず!」と感じた私は、
Aちゃんには少し難しい すみっコぐらしの折り紙に取り組んでみました。
普段使っている「てつだって」カードを見せても出さず、
「手伝おうか?」と聞いてもうなずかず、自分なりに頑張り続け、ついに涙が…。
ご家族から
「好きだからこそ、人の手を借りずに自分の力で やり遂げたかったのかもしれません」
と教えていただき、大反省でした。
ご家族と
今後はスペシャルに好きな物ではないけど、
嫌いではない女子っぽいものでやった方がいいね、という方針を確認しあいました。
Bくんは、初回の聞き取りの際、「鬼滅の刃にハマっている」と現在の興味関心を教えていただきました。
赤磐ぐんぐんは楽しいところだなと思ってもらいたい・興味関心のある課題を使って「できた!」と感じてもらいたいと思い、
早速「鬼滅の刃」のマッチング課題を準備しました。
Bくんはハマっているはずの鬼滅の刃マッチングを見てもなかなか取り組まず、
「えー…。何で伊之助だけ二つあるの…?変なの。何で…?」とつぶやいていました。
その後他のスタッフに課題を見てもらうと
「あー…、これはBくんにとっては納得しにくい課題かもね」と教えてもらいました。
実は当時、「鬼滅の刃」を見たことがなかった私は、
ネットで検索して「主要キャラクターっぽいな」と思われるものを適当に使って
課題を作ったのですが
「伊之助」というキャラクターの猪を被っているバージョンと被っていないバージョンを使っていて、それ以外は一体ずつになっていたのです。
「仮面ライダーシリーズが続いているところに
いきなりウルトラマン入れられているようなもんなんだよ」と教えてもらい
「私世代だとセーラームーン・マーキュリー・マーズ・ジュピターと並んでいるところに
いきなりウラヌスが並んでいるような違和感が近いんだな」と感じ
「あちゃー、そりゃ気になるわ」と納得と反省。
どちらも、
「興味関心があるからこそ、やりたい気持ちが強まる反面、取り組みにくくなってしまうこともあるんだなぁ」
「『好きなんだから、嬉しいよね』というような生半可な気持ちでの設定やニワカ知識で準備すると、混乱させてしまうんだなぁ」
と反省する出来事でした。
【うまくいったエピソード】
Cくんは、分からないことがある時に「教えて」カードを相手に渡して教えてもらう練習を療育の中で行っていました。
平仮名に興味関心があり、促音や濁音や半濁音などは難しい段階です。
読めない文字(「くりっぷ」など)があると、椅子からずるずる~と床に崩れて溶けてみたり、どこかに行こうとしたりすることがありました。
「興味関心があるのにもったいないなぁ」と思っていたところ、
お母さんから
「最近、妖怪にもハマっていて。こっちがビックリするぐらい妖怪の名前を知っているんです」と教えてくださいました。
二つ目の興味関心である「妖怪」の名前プリントの課題を作成したところ、
それまでとは打って変わってやる気に満ちた表情を見せてくれ、
「教えて」カードをどんどん使って
「こなきじじい」「かしゃぼ」などの読み方をスタッフに尋ねていました。
その後、「教えて」カードを、色々な妖怪を絡めた課題で実施したところ、
「教えて」カードを使うと教えてもらえる・助かったという経験が積み重なってきたようで、
現在は妖怪を使っていない課題でも「教えて」カードを渡せるようになってきつつあります。
DくんとEくんの二人は、
対人コミュニケーション・やりとり練習のためにグループ活動で作品作りなどをしても、
相手の子に見せるより反応が良い大人相手に「見て!」と見せることが多く、
「住んでいる地域や園も違うし、短い療育時間だけでは『あの子ともっと関わりたい!』という意識に繋がりづらいなぁ」と感じていました。
グループ活動での振り返りの際、
ご家族に伺うと偶然にもお互い「虫」「生き物」に興味関心があるとのことだったので、
共通の興味関心を活かし「『虫』のシールを貼って作品作りをし、お互いに見せあう」という形にして再度活動をしてみました。
最初はそれぞれに虫シールを貼りながら大人に対してそれぞれ別々で
「見て!これ〇〇!」などをコメントしていましたDくんとEくん。
相手の発言を聞いて「ん?もしかして対面に座っている相手も、虫が好きで詳しいのかも?」と気づいた様子。
徐々にお互いに「この虫はさ、〇〇だよね」「そうだね!それで△△なんだよね!」というやりとりが発生しました。
そこから遊び場面でもお互いのやっていることをチラチラと見合ったり、療育後にグラウンドで一緒に虫を探したりするようになりました。
「仲良くなったこの子が好きなものは何だろう?」ではなく
「僕が好きな〇〇が好きなこの子は誰だろう?」という流れで
相手を意識するんだなあ~と実感する出来事でした。
「限定された反復する様式の行動・興味・活動」と言われると、
「一つのことに強くこだわる」
「気になることがあるとそこ以外が目に入らなくなる」など
少しネガティブな捉えをされることもありますが、
「こだわり」って一般的には良い表現でも使います。
「こだわりのラーメン」
「こだわりの逸品」
「こだわり旅行」など、
すごく特別で代えがたいものって響きにもなると感じます。
「好きなことに没頭できる集中力がある」
「興味があることには優れた記憶力を発揮できる」
「興味関心を活かせば新しい人・場面・状況にも世界を広げていける」
「楽しみをご褒美に頑張れる力がある」など、
ASDの人にとって学びに活かしていける工夫の一つにもなると思います。
とはいえ、失敗してしまった事例で紹介したように、
安易に「好きだからいいよね!」と使ってしまうのも危ういこと。
療育に活かしていく際には
「今度、〇ちゃんの好きな△△を使ってこういうことをしたいと思います。
想定されそうなことってありますか?」など、
丁寧な情報収集が必要だなと思います。
ご家族と「お子さんが好きなこと」「好きなこととお子さんの付き合い方」などを一緒に確認しあいながら
お子さんが「あ!〇〇だ!」と嬉しそうな弾ける笑顔とともに学んでいく様子を、
スタッフとご家族でシェアしていき、たくさんの学びの場になっていけたらと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
(赤磐ぐんぐん療育スタッフ:O)
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