~赤磐ぐんぐんだよりは、
松田以外のスタッフが毎月交代で「育てる会会報」掲載用に書いています~
赤磐ぐんぐんだより 2023年6月末号
梅雨明けが待ち遠しい今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
ジメジメした暑さは身体に堪えます。
ASDのお子さんたちの中には、暑さに弱い子・体調の悪さの自覚がないことからの熱中症になる子・暑さによってイライラしていつもよりしんどさを感じる子もおられるので、必要に応じて赤磐ぐんぐんでもエアコンをつけ始めました。
寒暖差も激しく体調を崩しやすい季節ですので、皆様ご自愛ください。
さて、今回のテーマは「『手伝って』の奥深さ」についてです。
現在赤磐ぐんぐんでは
新規で来られたお子さんを中心に
様々なアセスメント(評価・情報収集)をご家族と一緒に取り組んでいます。
例えば今回のテーマでもある「表出コミュニケーション」について。
コミュニケーションサンプル表というものを活用しながら
「出来ていることは何か?」
「出来そうなことは何か?」
「今はちょっと難しいのは何か?」
を確認していきます。
そして、療育中だけでなく
慣れている環境である家庭や園での様子もお聞きしながら現状を確認し
ご家族と一緒に目標設定をするようにしています。
ASDのお子さんは
どの子にも「社会的コミュニケーション・相互的な対人やりとりの難しさ」があり
その難しさはお子さん一人一人によって違います。
自分の興味のあることはたくさんの語彙を使ってお話できるけど、相手の反応を見ていなくて一方的になる子
うまくいかずに困っている時に「○○ができないな」というような独り言コメントになっている子
慣れているお母さんやスタッフには発信しやすいけれど、慣れていない相手では発信が弱まる子
うまくできないと癇癪のように怒っている子などなど…様々です。
今回は、その中の
「援助要請=困っていることや助けてほしいことを相手に伝えること」について、
奥が深いなぁと自分にとって勉強になったエピソードをお話しします。
一つ目は、
赤磐ぐんぐんのコンサルの際に
コンサルタントの川崎医療福祉大学の諏訪利明先生から教えていただいたことです。
「そもそもASDのある子どもたちは、コミュニケーションの苦手さがある。
この子たちにとって
コミュニケーション練習すること自体、プレス(負荷)がすごくかかることを忘れないでね」
「子どもたちに何かを教えていくなら、まずは負荷が少ないところから始めてね。
『手伝って』を教えたいなら、最初は大人からどんどん手伝ってあげて。
ピンと来ていない子たちは、経験から学んでいくんだよ」
「負荷の少ないところから、スモールステップで進めて
課題も苦手なことばかりじゃなく、得意なところも入れてね。バランスも大事だよ」
と教えていただきました。
その話を聞いて自分の療育を振り返ってみると、
ご家族とのアセスメントで目標が「手伝って」に決まった子に
いきなり固い容器に入った具材を出すなどして、唐突に困った場面を作っていたことに気が付きました。
子どもたちは「え、、、」と驚きながらも
じっと待って何もしてくれないスタッフや台詞が示されたカード(リマインダー)を見たりして困った様子を見せながら
「手伝って」を表出してくれました。
思い返せばあの時この子たちは
不安の中勇気を振り絞っていたのではないか、と気づかされました。
子どもたちの立場になってみると
あまり素性を知らない人に助けを求めようとはしませんし
ましてや困らせてくるばかりの人たちを信用しようとは思わないはずです。
まずは関係作りから!
早め早めに大人から手助けし
様々な場面で「この人にもこの人にも助けてもらえた!」という経験を積んでいく。
その後、「助けを求めるときはこう言ったらいいんだよ」を教えていく。
明示的な学習が得意であり、見通しを持つことで安心できるのが、ASDの子どもたちの強みです。
実際に取り組む際には
「今から『手伝って』と相手に伝える練習をするよ」
「上手く開かない時には、『手伝って』と言ってくれたら、すぐに先生開けてあげるからね」
など事前に伝えて、ネタバレした上で取り組んでいく方が
なにが求められているか分かって安心して伝えることができます。
子どもたちのための療育にするために
「手伝って」に限らず
安心を感じられる負荷の少ない場面からのスタートを続けていきたいと思いました。
二つ目は
赤磐ぐんぐんで療育後に行われるスタッフミーティングで話題に上がった疑問についてです。
「『手伝って』を覚えた子どもが何でもかんでも『手伝って』を言うようになった。どうしたらいい?」
とご家族からの相談があった件についてのお話です。
援助要請を相手に伝えることを練習して「手伝って」を上手に相手に伝えられるようになった。
だからといって、自分でできていたことまで人に頼りだすのは違いますよね。
では、
本当に困っているときの「手伝って」と自分でできるのに言っている「手伝って」をどう見極めればいいのでしょうか。
スタッフ間で話し合い、様々な意見が出ました。
・以前の情報と照らし合わせて、本人が自分でできる難易度かを判断する。
・初めての課題で何をどうしたらいいか分からないようであれば、やり方を見せてみる。
・普段の取り組みや設定と、何か違いがないかどうかを確認する。
・その日の他のスケジュールや活動での様子から負荷がかかっていないかどうか、他の理由がないかどうかを探る。
などなど、どれもその子の現状を把握する方法だなと思い、先輩スタッフたちの引き出しの多さに驚きました。
この話が出た際に、児発管の松田先生から
吉田友子先生の
「高機能自閉症・アスペルガー症候群『その子らしさ』を活かす子育て(改訂版)」という本を紹介していただきました。
【『わかりません』『助けてください』『休みたいです』と言えることは心の安定にもつながります】
困ったときに手助けがもらえる、手助けがあればできなかったことが自分でできる、できなかったことができるとうれしい。こういう経験を積んでいない子は、できないかもと思ったとたんに投げ出してしまうことが多いです。あるいは逆に完成するまで自分を許せず、結局はパニックを起こしたり、たとえ完成しても披露とイライラをあとあとまで引きずったりしがちです。自閉症スペクトラムでは自分の肉体的・身体的疲労の度合いに気づいて、ほどほどの所で引いて休んでまた取り組むということが苦手です。自分の能力でできそうな範囲のものかどうかを判断して、完成に向けたプランを立てることも苦手です。( 中略 )分からない、休みたいと言うな、と対応するのではなく、それを連発しなくても済む課題設定や環境整備を進めていくことが急務です。
そして松田先生から、
「『分からない』とか『手伝って』とかが言えるのは、普段から分かる環境にいて、安心できる状況にいる子だけなんだよ」
「どうすればいいのか・周りが何を求められているのかが見えていないと、不安になるし、助けを求めたらいいんだということにも気付けないぐらいイッパイイッパイになるでしょう?
そういう心境・状況の時に、『手伝ってって言いなさい!』と言うのは、あまりにも酷な話なんだよ」
とも教えていただきました。
「手伝って」って、「ASD支援」って、本当に奥が深い!
まるで「謎解きの探偵」のようです。「真実はいつも一つ」!?
でもその子にとっての真実は何か、私たちスタッフだけでは分かりません。
ご家族と「なんでかな?」「どうしてかな?」と
子どもたちの行動の背景を一つ一つ深堀していきたいと思っています。
一緒に見つけていきましょう!
今後ともよろしくお願いいたします。
(赤磐ぐんぐん療育スタッフ:S)
コメント