赤磐ぐんぐんだよりは、育てる会会報用に
松田以外(たまに松田も)のスタッフが書いています(2か月に一度)
赤磐ぐんぐんだより(2023年8月末号)
暦の上では秋となりましたが、まだまだ暑い日が続いております。
皆様、今年の夏休みはいかがお過ごしでしたか?
新型コロナウイルスによる行動制限も緩和され、遠方への外出もしやすくなり、
ご家族からも「家族で旅行に出かけました」「久しぶりに帰省できました」と聞くことが多くなり、
お子さんたちが楽しかった経験を生き生き話す姿に、
スタッフたちもたくさんの元気をもらっています。
今月は以前も少し紹介したことのある
「友だちと勉強」の様子を実際のエピソードと共にご紹介したいと思います。
赤磐ぐんぐんは、年中・年長組のお子さんの療育をする事業所です。
あと半年で年長組は就学です。
小学校に向けてどんなことが課題になるのか・どういう姿が見えるのか、入学前の練習として小学校の授業場面を想定して行っています。
少人数(2〜4人)の子どもたちで、前後左右に机椅子を並べ、プリント学習や発表、休み時間や班活動などを体験しています。
お子さんたちにとっては、先生と勉強で練習してきた「手伝って」「教えて」「〇〇ください」などを他の子たちもいる中で手を挙げるなどして大人に伝える練習をしながら、成功体験を積むことができます。
またご家族にとっては、本人が送る小学校生活を想定しながら、就学時に必要な新しいスキルを教えたり、必要な環境を整えたり、学校にお渡しするサポートブックの情報を検討したりすることが可能になります。
成功体験になるように、色々準備やシミュレーションをしながら行っていますが、
「えー?!」「まさかそんな風に捉えるなんて」「かわいすぎるけど…」「ごめん、説明不足だったね」など、様々な発見をご家族と共有しています。
ASDのお子さんの気持ちになって考えてみてください。
もしかしたら、お子さんはこんなことを考えているかもしれません。(名前は全て仮名です)
【後ろの人って誰ですか】
プリント学習が終わり、先生が「後ろの人は、前の人のプリントを集めてきてください」と言いました。僕は後ろから二番目の席です。僕の列の一番後ろの席のシンゴくんは、今日は風邪でお休みです。だから、誰も僕の列のプリントを集めてくれません。ん?先生はどうしてこっちをじっと見ているんだろう。
【自分の名前を書きましょう】
配られたプリントに「なまえ」と書いてありました。普段、僕は「ケンちゃん」と呼ばれているけど、ここではちゃんと「ケンタ」と書きました。でも、先生からは「ちゃんと名前を書こうね」と注意されました。書いたよ?え?「ケンちゃん」が正解だった?
【トイレに行きたい】
授業中、私はトイレに行きたくなりました。でも、前に先生から「授業中は、席から立ち歩かず、座ったまま静かに取り組みましょう」と言われたことを思い出しました。座ったままトイレに行くには、どうしたらいいんだろう。もじもじしていると、先生が私のところに来て「鈴木さん、どうしたの?もしかしてトイレに行きたいの?」と言ったので、「はい。でも座ったままじゃないといけないから…」と答えたら、「行ってきていいよ。ほら、早く立って!行っておいで!」と言われました。あれ?いつの間にルールって変わったんだろう。
【次は誰の番?】
「この問題が分かる人は、手を挙げてください」と先生が言いました。手を挙げながら「知ってるよ!りんご!」と答えたら、「手を挙げて、先生に当てられたら答えを言ってね」と言われました。一問目は僕の列の一番前に座っているシホちゃんが当てられて答えました。二問目はその後ろに座っているトオルくんが当てられていました。なるほど、順番だな。3問目は、僕が当たるぞ、と思っていたのに、先生は「じゃあ、次の問題は、皆で答えを言ってみよう」と言いました。先生は、僕に当てたくなくて、いじわるをしたんだ!ひどいよ。
【プリント、まわしているよ】
席替えをして、今日から私は一番前。先生が「プリントを回してね」とプリントを渡してきた。回す?どうしてそんなことを言うんだろう。とりあえずプリントを机の上でくるくる回していたら、先生が「あー、そっか。『後ろに』回して」と言ってきた。なるほど、向きがあったのか。今度は逆回転させてみることにしたよ。
皆さん、これらのエピソードを読んでみてどのように感じましたか?
「まさかそんな風に感じるなんて!」と驚いた方・「ASDあるあるだよね」と苦笑いされた方・「苦労するよなぁ」と心配になった方、様々だったと思います。
赤磐ぐんぐんのスタッフでよく話に挙がるのは「わざとじゃないんだよね」「本人たちの考え方や感じ方からすれば、そりゃそうなるよね」という部分です。そう、お子さんたちの「ASDの学習スタイル」が影響しているからこそ起きること、なんですよね。
エピソードに登場したお子さんたちでいうと、どのようなことが言えるでしょうか?
「後ろの人」は、言葉通り、その列の一番後ろを指しています。プリントを集めるということは、そこに今現在いるメンバーしかできない仕事です。ですから、一番後ろの人がお休みでいないのであれば、その前の人が代わりに「後ろの人」役割を担う必要があります。
学校のプリントで求められる「自分の名前」は、姓名=フルネームを示します。スーパーでお母さんの職場の人に偶然出会って「お名前は?」と尋ねられた時には、下の名前を言えばいいです。でも、学校のプリントやテスト・持ち物などに記入したり答えたりすることが期待されているのは、苗字も含めたフルネームです。
授業中にトイレに行きたくなり授業が終わるまで我慢することが難しい場合には、先生に許可を得てトイレに行くことが許されます。何故ならば、授業を中断させたり中抜けしてトイレに行くことと、我慢して座り続け失敗して漏らしてしまうことでは、後者の方が、圧倒的に大変だからです。休み時間の間にトイレに行っておいたとしても、急な体調不良などでトイレに行きたくなることは誰にでも(きっと先生ご自身にも)起こりうる生理現象です。健康にもよくないので、我慢しすぎはよくありません。
授業で、先生がどの子をどの順番に指名するかは決まっているわけではありません。最初の方は運でしょうし、「当てて!」と自信満々な子・自信はないけど恐る恐る挙げている子・いつもはあまり挙手しないのに「ここは分かるぞ!」という表情をしている子・もう今日の授業で3回当てられている子…それらの子どもたちの表情や雰囲気をじっくり見ながらバランスよく指名しています。
「プリントを回す」というのは、「次の人に送る」という意味で何気なく使っている言葉です(回覧板とかも回すという字が入っていますよね)、子どもたちにとっては不親切ですよね。字義通り精一杯でやっていると思います。先日、「この列の分のプリントも配るから、次の人に渡してね」と伝えると、自分の分を取らずに配ってくれた子もいました。いかに自分たちが省略して喋っているかを実感しますね。
これらの学校ルール、自分たちが子ども時代を思い返すと、あまり丁寧に教えてもらった記憶はないかもしれません。
多分、なんとなく状況判断を適宜しつつ時に色々失敗もしながら学んできたことでしょう。
ですが、ASDのお子さんたちは、「なんとなく」「状況判断」「失敗しながら」はとてもしんどいです。
暗黙的で抽象的なことは理解しづらい。
しかも、たくさんの刺激の中から本当に必要な情報だけをピックアップして記憶していくには苦労が絶えません。
ASDのお子さんたちが
「なんとなく」「状況判断」「失敗しながら」学ぶことが苦手なのは、
本人のせいでしょうか?
「ASDの学習スタイル」から来ているんだから、
一般社会のやり方を学びなさい!頑張りなさい!
と言うことは、ちょっと一方的だと感じます。
それならば、ASDのお子さんたちに分かるように、
明示的に具体的に一つ一つを教えてあげたいと思います。
この「友だちと勉強」をご家族とも一緒に見て、
本人の学習スタイルやできそうな工夫を考えることの大切さを感じています。
もう一つ、
「障害」とは、本人に何かしらの問題があることをいうのではなく、本人にとって生きづらい世界に、その社会に課題があると言えます。
ASDの人が生きる世界を知ろうとしてほしいですし、
「本人にできること(頑張れること)」と「周りにできること(配慮や工夫)」のバランスが大事だと思います。
ASDに限らず、定型発達と言われる人たちも、誰一人として同じ人はいません。
自分とその他の人では、違うところがあって当たり前なのです。
その違いを認め、個々のニーズに合わせた環境が用意されることで誰もが自分の力を存分に発揮することができると思います。
赤磐ぐんぐんに通っているお子さんたちが、
その子らしく認められ安心できる学校生活が送れることを願い、
これからもご家族の皆さんと一緒に本人の世界を一緒に覗かせてもらえたら嬉しいです。
(赤磐ぐんぐん療育スタッフ:Y)
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